Journal of Epidemiology vol.14-(4) |
1)疫学の科学性と倫理性 Science and Ethics in Epidemiology 久道 茂(東北大学大学院医学系研究科社会医学講座公衆衛生学分野) 本稿は、第14回日本疫学会学術総会(2004年)で私が担当した特別講演を要約したものである。疫学は、「人間集団における疾病の分布とその決定要因を研究する科学」と定義される。近年の疫学研究手法の進歩、特に無作為割付対照試験(RCT)の普及により、疫学の科学的基盤は強まっている。高度に科学的な研究手法がヒトに適用されるとき、その研究の倫理性が問われることがある。一方、科学的な根拠なしに新薬やワクチンを使うことも、非倫理的と言わざるを得ない。疫学研究の倫理的側面と科学的側面はともに重要なものであり、ときに両者は葛藤やジレンマを生むことがある。このジレンマを解決して、人間集団の健康増進と疾病予防に貢献するにはどうすればよいかについて論じる。最後に、疫学を「ネオタイプ」の科学に変換して、疫学を「益学」とするための新しいパラダイムを提案したい。 キーワード:疫学、科学性、倫理性 (P105~111) 2)Strategies for Prevention and Management of Hypertension throughout Life Katsuyuki Miura (P112~117) 3)Residential Proximity to High-Voltage Power Lines and Risk of Childhood Hematological Malignancies Tetsuya Mizoue, et al. (P118~123) 4)日本人の睡眠時間と死亡:Jichi Medical School コホート研究 Sleep Duration and Mortality in Japan: the Jichi Medical School Cohort Study 天海陽子(自治医科大学地域医療学センター地域医療学部門)、石川鎮清、後藤忠雄、土井由利子、萱場一則、中村好一、梶井英治 背景:睡眠は健康に影響を与える重要な要素の一つであるが、睡眠時間と死亡の関係は十分に検討されていない。 方法:Jichi Medical School コホート研究のデータを用いた前向き研究で、対象者は11,325人(男性4,419人、女性6,906人)であった。ベースラインデータは1992年から1995年にかけて日本の12地区でアンケート調査と健康診査により収集した。2001年12月31日までの総死亡および疾患別死亡を死亡小票から確認し、睡眠時間と死亡の関係をCox比例ハザードモデルを用いて解析した。 結果:平均追跡期間8.2年の間に495人(男性289人、女性206人)が死亡した。年齢、収縮期血圧、血清総コレステロール値、Body mass index、喫煙歴、飲酒歴、教育歴、婚姻歴で調整した7-7.9時間睡眠に対する総死亡のハザード比(95%信頼区間)は男性では6時間未満睡眠で2.4(1.3-2.4)、9時間以上睡眠で1.1(0.8-1.6)、女性ではそれぞれ0.7(0.2-2.3)、1.5(1.0-2.4)であった。 結論:我々のデータでは睡眠時間の短い男性と睡眠時間の長い女性で死亡のリスクが高くなることが示唆された。 キーワード:コホート研究、死亡、睡眠、死因、日本 (P124~128) 5)エンドセリン1の遺伝子多型(Ala288Ser)と高血圧罹患とは関連しない:日本人労働者における後ろ向きコホート研究 The Lack of Relationship between an Endothelin-1 Gene Polymorphism (Ala288Ser) and Incidence of hypertension: A Retrospective Cohort Study among Japanese Workers 嘉悦明彦(鳥取大学医学部社会医学講座環境予防医学分野)、岸本拓治、尾崎米厚、福本宗嗣、黒沢洋一 背景:いくつかの症例対照関連研究が、エンドセリン1のいくつかの遺伝子多型と血圧との関連を報告している。エンドセリン1の如何なる遺伝子多型とも、高血圧罹患との関連については報告されていないため、エンドセリン1の新しい遺伝子多型(G862T / Ala288Ser in exon 5)と高血圧罹患との関連について、後ろ向きコホート研究を用いて検討した。 対象と方法:島根県内のある企業の労働者を対象とした。対象者の血液から抽出したゲノムDNAの多型を、polymerase chain reaction confronting two pair primers (PCR-CTPP)法を用いて解析した。解析対象者を、6年の間隔を置いた二回の定期健康診断の結果をもとに、対象集団から1992年の健診で高血圧だった者を除いたあと、1998年の健診時点での血圧と高血圧治療によって二群に分けた。 結果:922名(男性540名、女性382名)の解析対象者のうち133名(男性93名、女性40名)の高血圧罹患者が出た。単変量解析では、Ala/Ala遺伝子型の者に対して、Ala/SerとSer/Ser遺伝子型の者における高血圧罹患のOdds比と95%信頼区間は、それぞれ0.98(0.7-1.4)、0.79(0.4-1.6)だった。性、年齢、BMI、血清総コレステロール、空腹時血糖値と、喫煙、飲酒習慣を調整した多変量解析では、Ala/Ala遺伝子型の者に対して、Ala/SerとSer/Ser遺伝子型の者における高血圧罹患のOdds比と95%信頼区間は、それぞれ0.97(0.7-1.4)、0.75(0.4-1.5)だった。 結語:本研究で検討したエンドセリン1の遺伝子多型は、日本人労働者において、高血圧罹患と関連しなかった。 キーワード:エンドセリン1、遺伝子多型、高血圧、コホート研究、日本人労働者 (P129~136) |