Journal of Epidemiology vol.15-(6) |
1)我が国におけるがんサーベイランスの枠組みについて A Framework for Cancer Surveillance in Japan 金子 聰(国立がんセンターがん予防・検診研究センター情報研究部) 世界保健機関(WHO)は、予防可能ながんによる死亡を減少させるため、国レベルでのがん対策プログラムの策定を各国に推奨している。がん対策プログラムは、科学的根拠に基づいた優先性の決定、限られた資源を有効に利用するための包括的かつ体系的枠組みが必要である。根拠に基づく情報を提供するためには、がんによる罹患、死亡、生存割合、さらには、有病率(がん生存者数)を常に監視するシステムである「がん登録」を基盤とした情報収集のシステム構築が必須であるが、我が国では、基盤となるべきがん登録の構築と標準化が遅れていた。2003年、厚生労働省による第3次対がん総合戦略研究事業が始まり、がん登録の標準化と普及に関する研究班を中心に標準化と普及のプログラムが展開されている。がん登録システムの構築は、WHOが推奨する国レベルでのがん対策プログラムを推進に必要とされるがんサーベイランスシステムの第1歩目である。今後、品質の高いがん医療サービスをすべての国民に提供するため、がんサーベイランスシステムの構築が急がれる。 キーワード:がん、疫学・予防、登録、日本 (P199~202) 2)健常な日本人成人男性におけるエネルギー過剰摂取とβ3-アドレナリン受容体遺伝子Trp64Arg多型の相互作用により生じる肥満リスクの上昇 Increased Risk of Obesity Resulting from the Interaction between High Energy Intake and the Trp64Arg Polymorphism of the β3-adrenergic Receptor Gene in Healthy Japanese Men 宮木幸一(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室)、酢谷真也、菊池春人、武井 泉、村田 満、渡辺清明、大前和幸 背景:β3-アドレナリン受容体(ADRB3)遺伝子Trp64Arg多型と環境因子の相互作用についての報告は十分ではない。我々はADRB3遺伝子多型と肥満の関係に対してエネルギー摂取量がどのような影響を及ぼすかについて検討した。 方法:健康な日本人成人男性295名(年齢46.1±11.5歳;ウエスト周囲径83.9±9.3 cm;BMI 23.3±3.3 kg/m2)を解析の対象とした。自己記入式質問表への回答からエネルギー摂取量、PFC比率、身体活動量を評価し、さらに、文書による同意に基づき、ADRB3遺伝子多型のタイピングを行った。 結果:全被験者をADRB3遺伝子多型の有無のみにより2群に分けたところ、ウエスト周囲径とBMIに有意差はみられなかったが、全被験者をエネルギー摂取量によりquartileに分けたところ、エネルギー摂取量の最も多い4th quartileにおいてのみADRB3遺伝子多型あり群の非肥満者数に対する肥満者数の比が多型なし群のものと比較して有意に大きかった。また、ロジスティック回帰分析において、ADRB3遺伝子多型の存在は4th quartileでのみ肥満のリスクを有意に上昇させるという結果が得られた(adjusted OR=3.37,95%信頼区間=1.12-10.2)。 結論:ADRB3遺伝子多型の存在単独では肥満リスクの上昇はみられなかったが、そこへエネルギー過剰摂取という環境因子が加わると両者の間に相互作用が生じ、肥満リスクの有意な上昇がみられた。肥満のテイラーメイド予防を考える際には、肥満発症に関わるとされている他の遺伝子多型とともに、ADRB3遺伝子Trp64Arg多型を考慮するべきであると考えられる。 キーワード:肥満、β3-アドレナリン受容体、一塩基多型、エネルギー摂取量、質問表 (P203~210) 3)魚類摂取頻度と血清長鎖n-3脂肪酸レベル:Japan Collaborative Cohort Studyにおける横断的研究 Intake Frequency of Fish and Serum Levels of Long-chain n-3 Fatty Acids: A Cross-sectional Study within the Japan Collaborative Cohort Study 若井建志(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部)、伊藤宜則、小嶋雅代、徳留信寛、小笹晃太郎、稲葉裕、柳生聖子、玉腰暁子、JACC Study Group 背景:長鎖n-3脂肪酸のがんに対する予防的効果が示唆されているが、いくつかの研究は、自己申告による魚類摂取頻度を長鎖n-3脂肪酸摂取の代理指標に採用している。しかし、報告された魚類摂取がそれら脂肪酸摂取を反映しているか否かを明らかにすることが必要である。 方法:Japan Collaborative Cohort Studyでのコホート内症例対照研究における、40~79歳の1,257人の対照(男性631人、女性626人)において、魚類摂取頻度と血清長鎖n-3脂肪酸(全脂肪酸に対する重量パーセント)との関連を検討した。採血時、すべての対象者が空腹状態ではなかった。血清脂肪酸はガスクロマトグラフィーにより定量した。 結果:男性では、新鮮な魚や干魚・塩魚の摂取頻度がエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(n-3)(DPA)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)の血清レベルと有意に相関していたが、関連は弱かった。年齢調整スピアマン相関係数は0.11~0.18であった。女性では、新鮮な魚の摂取が血清EPA(スピアマン相関係数0.12)と、干魚・塩魚摂取が血清DPA(同0.11)といくらか関連していた。男女ともに、新鮮な魚、干魚・塩魚の摂取頻度が増加するとともに、血清EPA、DPA、DHAの幾何平均値は上昇する傾向が認められた。年齢・参加施設を調整した血清レベルの幾何平均値は、摂取頻度最高群では最低群よりも7~40%高かった。 結論:自己申告による魚類摂取頻度が高い集団では、摂取頻度の低い集団と比べ、全体としては長鎖n-3脂肪酸の生物学的利用可能性が高いようである。 キーワード:魚類、食事記録、n-3脂肪酸、EPA、DHA (P211~218) 4)日本の健康余命を説明する要因:高齢労働者割合、主観的健康度、保健師数 Factors explaining disability-free life expectancy in Japan: the proportion of older workers, self-reported health status, and the number of public health nurses 近藤尚己(山梨大学大学院医学工学総合研究部社会医学講座)、水谷隆史、薬袋淳子、風間眞理、今井久、武田康久、山縣然太朗 背景:1999年に日本の都道府県別健康余命(Disability-free life expectancy: DFLE)のデータが発表されたが、そのDFLEの分布に関連する要因に関する報告はほとんど無い。本研究の目的は、日本のDFLEに関連する主要な要因を明らかにすることである。 方法:47の都道府県を解析単位とした生態学的研究を行なった。橋本らによって、サリバン法を用いて算出された男女別の65歳時DFLE(DFLE65)を従属変数とした。説明変数には、複数の全国調査から181変数を選択し、人口動態、社会経済要因、健康状態及び健康行動、医療環境、社会関係、気候、その他に分類した。ピアソンまたはスピアマンの相関係数を用いて、DFLE65に関連する可能性のある変数をスクリーニングした後、選ばれた24変数を説明変数として重回帰分析を行なった。老年人口割合と人口密度(対数変換)を調整変数として用いた。 結果:重回帰分析により、100,000人当たりの保健師数が多い、主観的健康度が「良い」人の割合が多い、そして高齢労働者(65歳以上)の割合が高い都道府県では有意に男女ともDFLE65が高いことが示された。 結論:これら3要因は日本における高齢者の健康余命の地域差を説明している可能性がある。 寿命、高齢者、保健師、社会経済要因、主観的健康度 (P219~227) 5)就労者における仕事特性尺度得点の5年間の安定性 Five-year stability of job characteristics scale scores among a Japanese working population 萱場一則(埼玉県立大学保健医療福祉学部)、堤明純、後藤忠雄、石川鎮清、三浦宜彦 背景:仕事のストレインを高い仕事の要求度と低い裁量度の組み合わせで評価するKarasekモデルは、心血管疾患や医療分野の研究に用いられてきた。しかしながらこのモデルにより評価した職場状況の長期安定性はほとんど知られていない。本研究では地域在住の健康就労者を対象に仕事特性尺度得点を5年の間隔で2回測定し、その安定性を検討した。 方法:自治医科大学コホート研究参加者のうち、新潟県南魚沼市在住の有職者458名を対象に、日本語版The World Health Organization Multinational Monitoring of Trends and Determinants in Cardiovascular Disease (WHO-MONICA) Psychosocial Study Questionnaireを、平均5年間隔で2回施行し、それらの尺度得点の級間相関係数を計算した。 結果:全対象者の級間相関係数は、裁量度で0.629(95%信頼区間; 0.564-0.686)、要求度で0.551(0.476-0.617)であった。年齢、性、教育年数、就労期間、同僚の数、職種、職位などで場合分けしても同様な値であった。これに対し、追跡期間中に転職や配置転換を経験した対象者では、裁量度および要求度の両方で低い相関係数を示した。 結論:本研究対象者では、日本語版WHO-MONICA Psychosocial Study Questionnaireによる仕事特性尺度得点は統計学的に有意な長期安定性を示した。また、尺度特性として、仕事のストレインの変化へのある程度の反応性を有するかもしれない。 (P228~234) 6)出版バイアスを検出するための統計学的テストの系統的評価と比較 Systematic Evaluation and Comparison of Statistical Tests for Publication Bias 林野泰明(京都大学大学院医学研究科 医療疫学)、野口善令、福井次矢 本研究の目的は、メタ分析における出版バイアスを検出するための3つの統計学的テスト(Begg法、Egger法、Macaskill法)の統計学的検出力と識別力を評価することである。対象として、Cochrane Database of Systematic Reviews 2002年度版に掲載されたメタ・アナリシスのうち、二項のアウトカムを評価し10以上の原著論文を含むものを対象とした。二人の観察者の解釈が一致したファネル・プロットを参照基準とし、統計学的テストのp値を変化させることによる統計学的検査の感度、特異度のトレードオフ、偽陽性率を固定した際の統計学的テストの検出率、受診者動作特性曲線下面積を評価した。二人の観察者の評価が一致した36のメタ分析において、733の原著論文で2,874,006名が対象となっていた。各々のメタ分析に含まれる原著論文の範囲は10から70(中央値 14.5)であった。偽陽性率を0.1に固定した場合のEgger法の感度は0.93であり、Begg法(0.86)やMacaskill法(0.43)よりも高い結果であった。3つのテストの感度はカットオフのp値を高くする事により増加したが、それに比して特異度はそれほど低下しなかった。Egger法の受診者動作特性曲線下面積は0.955(95%信頼区間、0.889-1.000)であり、Bagg法(0.913)と比較して差はなかったが(p=0.2302)、Macaskill法(0.719)よりも有意に大きかった(p=0.0116)。第一種の過誤レベルを同じ値に固定した場合、Begg法とEgger法はMacaskill法と比較して高い検出力を有していた。カットオフのp値を高くすることにより、偽陽性率を偽性にすることなくこれらの統計学的テストの検出力を改善することが可能である。 キーワード:メタ分析、コクラン・ライブラリー、ファネル・プロット、出版バイアス (P235~243) 7)Association of Pregnancy Intention with Parenting Difficulty in Fukushima, Japan Aya Goto, et al. (P244~246) |