Journal of Epidemiology vol.16-(5) |
1)Relationships of Age at Menarche and Menopause, and Reproductive Year with Mortality from Cardiovascular Disease in Japanese Postmenopausal Women: the JACC Study 崔 仁哲(筑波大学大学院人間総合科学研究科社会健康医学)、磯 博康、豊嶋英明、伊達ちぐさ、山本昭夫、菊地正悟、近藤高明、渡辺能行、小泉昭夫、稲葉裕、玉腰暁子 【目的】早期閉経により虚血性心疾患のリスク増加との関連が白人女性で報告されている。しかしながら、アジア女性においてはこれまで検討されていない。 【方法】文部科学省大規模コホート研究において、40~79歳の37,965人女性(循環器疾患、がんの既往者除く)を対象として、1988-90年から1999年末まで10年間を追跡した。死因は国際疾病分類第10版(ICD10)に従って分類した。初潮、閉経年齢、生殖期間年数と循環器疾患死亡の相対危険度(95%CI)を算出した。分析において、年齢、肥満度(BMI)、喫煙状況、飲酒量、高血圧の既往、糖尿病の既往、結婚歴、教育歴と閉経状況を調整した。 【結果】10年間の追跡期間中、死亡人数は、全脳卒中487人、虚血性心疾患178人、全循環器疾患1,010人であった。初潮、閉経、生殖期間年数と虚血性心疾患の死亡との相関は認めなかった。初潮年齢は17歳以上の群では13歳以下の群に比べ、脳卒中の死亡リスクが高い傾向を示し、相対危険度は1.3(0.9-1.9、p=0.10)であった。べスライン年齢が40-64歳の女性において、閉経年齢が49歳未満の群は49歳以上の群に比べ虚血性心疾患の死亡リスクが高い傾向を示した:相対危険度は1.9(0.9-3.7、p=0.08)であった。 【結論】日本人中年層女性において早期閉経による虚血性心疾患の死亡リスクの増加傾向が認められた。この成績は白人女性における研究結果と一致し、女性ホルモンによる動脈硬化進展の予防効果を示唆する成績である。 【キーワード】虚血性心疾患、脳卒中、閉経、初潮、追跡研究 (P117~184) 2)日本人男性における喫煙、飲酒、緑茶摂取と食道癌罹患に関する前向きコホート研究 Smoking, Alcohol Drinking, Green Tea Consumption and the Risk of Esophageal Cancer in Japanese Men 石川敦庸(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)、栗山進一、坪野吉孝、深尾 彰、高橋晴彦、立谷秀清、辻 一郎 【背景】喫煙と飲酒は食道癌の確立した危険因子と考えられているが、これらの人口寄与危険度割合は十分に明らかにされていない。さらに、緑茶の影響については一定の結論が得られていない。 【方法】本研究では2つの前向きコホート研究の結果を統合解析している。 生活習慣に関する自記式質問票を用いて、40歳以上で癌の既往のない男性を対象とし、Cohort 1では9008人、Cohort 2では11,715人を対象とした。Cohort 1 (9.0年間のフォローアップ)とCohort 2 (7.6年間のフォローアップ)でそれぞれ38人と40人の食道癌の罹患を観察した。各カテゴリー間の相対危険度の算出には、Coxの比例ハザードモデルを用いた。 【結果】喫煙、飲酒、緑茶摂取はすべて、食道癌罹患リスクの上昇と関連していた。 生涯一度も煙草を吸ったことがない男性、飲酒をしない男性、緑茶を飲まない男性と比べて、1日20本以上喫煙する男性、毎日飲酒する男性、1日5杯以上緑茶を飲む男性の統合された多変量ハザード比(95%の信頼区間)はそれぞれ、5.09 (1.80-14.40) (傾向性のP値<0.0001)、2.73 (1.55-4.81) (傾向性のP値=0.0002)、1.67 (0.89-3.16) (傾向性のP値=0.04) であった。喫煙、飲酒、緑茶の食道癌に対する人口寄与危険度割合はそれぞれ、72.0%、48.6%、22.1%であった。 【結論】喫煙、飲酒、緑茶摂取はすべて食道癌罹患リスクの上昇と関連し、本研究で検討したこれら変数の中では、食道癌に対する人口寄与危険度割合は喫煙が最も大きく、飲酒、緑茶がこれに続いていた。 【キーワード】飲酒、緑茶、喫煙、食道癌、相対危険度、人口寄与危険度割合 (P185~192) 3)食事以外からのビタミン,カルシウム摂取が疫学研究における栄養素摂取量評価に与える影響 Impact of Non-dietary Nutrients Intake on Misclassification in the Estimation of Nutrient Intake in Epidemiologic Study 尾形美樹子(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)、栗山進一、佐藤ゆき、島津太一、中谷直樹、大森芳、寳澤 篤、辻 一郎 【背景】食事要因と健康影響との関連を検討する際に、食事以外からのビタミン、カルシウム摂取(ビタミン、カルシウム含有栄養補助食品、市販薬、医師処方薬)が栄養素摂取量評価に与える影響を検討した疫学研究は少ない。 【方法】栄養素摂取量の評価において、ビタミン、カルシウムの食事以外からの摂取の影響を検討するために、宮城県仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区に居住する70歳以上の2002年「寝たきり予防健診(Comprehensive Geriatric Assessment)」の参加者1,168名を対象とした横断研究を実施した。健診受診者には摂取している全ての栄養補助食品、市販薬、処方薬を会場に持参して貰い、そこからビタミン、カルシウムの食事以外からの摂取量を評価した。食事からの評価摂取量と食事以外からのビタミンB1、C、Eとカルシウム評価摂取量を合計した摂取量について対象者を4分位に分類した。同様に食事からの摂取量のみの評価によるビタミン、カルシウム摂取量についても対象者を4分位に分類し、両者の一致度から誤分類の割合を検討した。 【結果】ビタミンEでは、食事からの評価摂取量と食事以外からの評価摂取量で最大摂取量に分類された人のうち、食事のみの評価では34.2%がより低い群に誤分類されていた。同様にビタミンB1、Cとカルシウムの摂取では28.8%、18.8%、6.2%とそれぞれ誤分類されていた。 【結論】食事からのみのビタミン摂取量評価は最大で1/3の誤分類を生じ、食事以外からのビタミン摂取量も考慮しなければ疫学研究において、結果に及ぼす影響が大となる可能性を示唆した。対照的に、カルシウムの誤分類割合は比較的低かった。 【キーワード】カルシウム、食事、食事以外の摂取、誤分類、サイアミン、アスコルビン酸、ビタミンE (P193~200) 4)虚血性心疾患患者におけるプラバスタチン服用のがん発生への影響-「冠動脈硬化予防研究」の5年追跡結果からの検討- Pravastatin use and the five year incidence of cancer in coronary heart disease patients: from the Prevention of Coronary Sclerosis Study 佐藤眞一(大阪府立健康科学センター)、味木和貴子、小林亨、淡田修久、冠動脈硬化予防研究グループ 【目的】スタチンの短期間服用の際の安全性は広く知られているが、長期間服用の際の発がん性についてはまだ議論が決着していない。本研究の目的は、虚血性心疾患患者におけるスタチン治療とがん発生との関連を求めることである。 【方法】対象は、大阪府立成人病センターに1991年9月28日から1995年3月31日までの間に入院した大阪府在住の虚血性心疾患患者263人である。5年間の追跡期間中におけるがん発生は、院内がん登録と大阪府がん登録により把握した。コックス比例ハザードモデルを用いた全がん発生のハザード比(HR)と部位別のO/E比を求めた。 【結果】追跡期間中に17例のがん患者が発生した。多変量解析の結果、年齢(1歳増加によるHR=1.16)と継続喫煙(非喫煙に対するHR=5.82)が、がん発生と有意に関連していた。性、年齢、血清総コレステロールレベルと喫煙状況を調整したプラバスタチンのがん発生に対するHRは、0.78(95%信頼区間0.18 - 3.46)であった。部位別のO/E比の解析では、膀胱がんにおいて全対象者(HR=8.93)とプラバスタチン服用者(HR=13.76)で有意なリスクの上昇を認めた。 【結論】5年間にわたるプラバスタチンの服用により、全がん発生のリスクが上昇することはなかった。 【キーワード】HMG-CoA還元酵素阻害薬、悪性新生物、冠状動脈硬化、追跡研究 (P201~206) 5)Arsenic in Drinking Water and Peripheral Nerve Conduction Velocity among Residents of a Chronically Arsenic-affected Area in Inner Mongolia Yoshihisa Fujino, et al. (P207~213) 6)日本における永久歯の抜歯原因について Reasons for Permanent Tooth Extractions in Japan 相田潤(北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座予防歯科学教室)、安藤雄一、アクター・ラヘナ、青山旬、増井峰夫、森田学 【背景】これまで日本において、永久歯の抜歯原因についての全国調査は行われていない。本調査の目的は、日本における永久歯の抜歯原因を調べることである。 【方法】2004年の日本歯科医師会会員名簿から、5,131人の歯科医師を系統抽出した。抽出された歯科医師に2005年2月1日から7日までの一週間で実施した永久歯の抜歯の原因を記録するように依頼した。抜歯原因は5つのグループに分類した:う蝕、う蝕かその治療が原因の破折、歯周病、矯正治療、その他。 【結果】2,001人の歯科医師(回収率39.1%)から質問紙を回収し、7,499人の患者からの9,115本の抜去歯の情報が得られた。う蝕とその後発症による破折(それぞれ32.7%と10.6%で計43.3%)と歯周病(41.8%)が、抜歯の主原因だった。う蝕や破折による抜歯は、15歳以上の全年齢層を通して観察された。一方歯周病による抜歯は、45歳以上の年齢層で多かった。 【結論】抜歯された永久歯の大部分は、う蝕とその後発症による破折、および歯周病により抜去されていた。全年齢を通したう蝕の予防と治療および、中年以降の歯周病の予防と治療が必要であろう。 【キーワード】抜歯、歯の喪失、疫学、う蝕、歯周病 (P214~219) |