Journal of Epidemiology vol.17-(5) |
1)質問紙・血清マーカーを用いた疫学研究による肥満及び代謝異常症候群の病態解明 Pathophysiologic Mechanisms of Obesity and Related Metabolic Disorders: An Epidemiologic Study using Questionnaire and Serologic Biomarkers 八谷寛(名古屋大学大学院医学系研究科公衆衛生学/医学ネットワーク管理学分野) 【背景】成人期の体重変化の違いによって、その後の血中インスリン濃度やメタボリックシンドロームあるいはその構成要素の有病率に差があるかどうかは未だ明確でない。 【方法】本横断研究の対象は40-59歳の日本人男性3,399人(体重差分析)または1,879人(体重変動分析)である。体重差は現在(ベースライン時)の体重と自己申告による20歳代半ば頃の体重の差として算出した。体重変動の指標として、対象者ごとに20、25、30、40歳、ベースラインの5年前、ベースライン時点での体重を従属変数、各年齢を独立変数とした単回帰直線を求め、そのRoot mean square error(体重-RMSE)を算出した。メタボリックシンドロームの各構成要素は次のように定義した。血清トリグリセライド≧150mg/dl、HDLコレステロール<40mg/dl、空腹時血糖≧110mg/dl、血圧≧140/90。結果:20歳代半ば頃からの体重変化が少ない群に比べ体重増加が10%未満、20%未満、20%以上の群においてメタボリックシンドロームの構成要素を2つ以上有するオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ1.28 (0.95-1.73)、2.49 (1.91-3.24)、5.30 (3.97-7.07)であった。また、体重-RMSEは現在の体重、体重変化の傾き、生活習慣関連要因に独立して空腹時インスリン濃度と有意な正の関連を示した。 【結論】体重増加が大きい個人では、その者に存在する空腹時インスリン高値といった生理学的基盤に基づき、メタボリックシンドロームの構成要素が集積しやすい傾向があった。さらに体重変動が空腹時高インスリン血症のリスクを上昇させる可能性が示唆された。 キーワード:肥満、体重増加、体重減少、インスリン、メタボリックシンドローム、日本 (P141~146) 2)大気汚染と小児における血清C反応性蛋白濃度との関連 Air Pollution and Serum C-reactive Protein Concentration in Children 島 正之(兵庫医科大学公衆衛生学講座) 大気汚染がヒトの健康に及ぼす影響を評価するための生物学的指標はほとんど知られていない。本研究は、小児における血清C反応性蛋白(CRP)濃度と呼吸器症状及び大気汚染との関連を評価することを目的とした。大気汚染濃度の異なる千葉県3地域の学童2094名を対象として、2001年に呼吸器症状調査および血清CRP濃度の測定を実施し、血清CRP濃度と性、年齢、呼吸器症状、様々な環境因子との関連を検討した。血清CRP濃度は、年齢とともに低下し、乳児期に人工栄養であったもの、母親が喫煙するものは有意に高かった。喘鳴症状があるものは症状のないものよりも血清CRP濃度が有意に高かった。これらの因子を調整すると、血清CRP濃度が90パーセンタイル値(1.4mg/L)以上であることは、大気中浮遊粒子状物質(SPM)および二酸化硫黄(SO2)濃度との間に有意な関連が認められた(観察されたSPM濃度範囲についてのオッズ比[OR] = 1.49、95%信頼区間[CI]: 1.07-2.06、SO2濃度範囲についてのOR = 1.45、 95% CI: 1.04-2.03)。SPMと二酸化窒素(NO2)濃度の2種の大気汚染物質を含むモデルでも、SPM濃度との関連は有意であった(OR = 1.94、 95% CI: 1.08-3.50)が、NO2濃度との関連は認められなかった(OR = 0.62、 95%CI: 0.26-1.48)。以上のように、血清CRP濃度は喘鳴症状および大気汚染との関連が認められた。様々な大気汚染物質の濃度は相関が非常に大きいので、何れの汚染物質の影響が大きいのかを明らかにすることは困難である。 キーワード:C反応性蛋白、大気汚染、浮遊粒子状物質、喘息、喘鳴 (P169~176) |