JEA
Journal of Epidemiology vol.20-(3)

1)環境疫学に有用な疫学研究デザインと統計手法について

新田裕史(国立環境研究所)、山崎新、大森崇、佐藤俊哉

 環境疫学領域における研究デザインと解析手法の多くは大気汚染の疫学研究で開発された。微小粒子状物質が日死亡に与える短期影響を評価する際、時系列データが用いられるが、その解析には気温や湿度の影響を柔軟に調整するスムージングを取り込んだポアソン回帰が開発された。おなじ問題に対しケース・クロスオーバー研究を用いられており、バイアスの少ないコントロール期間の選択についてさまざまな検討がなされている。環境省が実施している「そらプロジェクト」では、曝露と疾病ともにまれな場合でも効率のよいデザインである2段階ケース・コントロール研究が採用されている。大気汚染の疫学研究実施に関する著者らの経験に基づいて、本稿では環境疫学研究に有用だと思われる2段階ケース・コントロール研究、ケース・クロスオーバー研究、一般化線形モデル、一般化加法モデル、一般化推定方程式について解説する。

キーワード:デザインと解析、環境疫学、方法論
P177-184

2)高血圧が国民健康保険医療費に及ぼす影響についての年齢別の検討

西連地利己(獨協医科大学公衆衛生学講座)、入江ふじこ、泉陽子、武藤孝司

【背景】高血圧が医療費に及ぼす影響を年齢別に検討するため、後ろ向きコホート研究を実施した。
【方法】2002年に基本健康診査を受診した茨城県の40歳~69歳の国保加入者42,426人(男性16,169人、女性 26,257人)を対象として、2006年の医療費を分析した。血圧はJNC-7に基づいて分類した。
【結果】正常血圧者の医療費と高血圧者の医療費の差は、
男性40歳~54歳で119,585円 (140,360円対20,775円)、男性55歳~69歳で126,160円 (204,070円対77,910円、女性40歳~54歳で125,495円 (158,025円対32,530円)、女性55歳~69歳で122,370円 (208,700円対86,330円)であった。男女ともいずれの年齢階級においても、総医療費と外来医療費の中央値はStage 1とStage 2(含高血圧治療中)との間で大きく異なっていた。総医療費と外来医療費の中央値は、いずれの血圧カテゴリにおいても男性よりも女性の方が高かった。
【結語】高血圧が医療費に及ぼす影響はいずれの年齢階級でも同様であった。よって、高血圧の発症を予防することは、医療経済的な観点から、いずれの年齢階級においても重要であると思われた。

キーワード:高血圧、医療費、年齢
P192-196

3)日本の小児の体格・血圧・血清脂質の年次推移(1993-2008年):磐田市のポピュレーション・ベースの健診データより

甲田勝康(近畿大学医学部公衆衛生学教室)、中村晴信、西尾信宏、藤田裕規、竹内宏一、伊木雅之

【目的】小児における体格・血圧・血清脂質のトレンドは将来の成人の疾病構造を予測する。しかしながら、日本の小児の血圧や血清脂質のトレンドはほとんど知られていない。
【方法】磐田市では1993年から2008年まで、旧磐田地区市内の11小学校に在籍する全小学5年生を対象に、高脂血症や肥満等のスクリーニングを行い、異常者には生活習慣病予防教室を開催してきた。今回は、1993年から2008年の16年間に同市の11小学校に在籍した全小学5年生(15,029名)のうち、健診を受診した14,872名の体格・血清脂質・血圧の動向について検討した。従属変数を各計測値、独立変数を西暦とした回帰分析等を行った。
【結果】1993年から2008年までに、男児のBody mass index(BMI)の95パーセンタイル値は1年間に0.09kg/m2増加した。BMIの5パーセンタイル値は1年間に男児が0.02、女児が0.03kg/m2減少した。収縮期血圧の95パーセンタイル値は1年間に男児が0.52mmHg、女児が0.40 mmHg低下した。拡張期血圧も有意に低下した。血清脂質に明らかな変化は無かった。
【結論】期間中に肥満と痩せの増加が観察されたが、血圧については男女共に低下していることが示された。血清脂質については明らかな変化はみられなかった。

キーワード:血圧、小児、コレステロール、疫学、危険因子
P212-218

4)福井県におけるがんの罹患と死亡のトレンド解析-地域がん登録データからの解析-

服部昌和(福井県立病院 がん医療センター)、藤田学、伊藤ゆり、井岡亜希子、片野田耕太、中村好一

【背景】精度の高い地域がん登録データを用いた罹患や死亡のトレンド解析は少ない。福井県地域がん登録データを用いて、推計値ではない年齢調整罹患率と年齢調整死亡率の推移の分析を行った。
【方法】1984年から罹患は2004年、死亡は2002年までの福井県がん登録資料を用いて年齢調整罹患率および年齢調整死亡率の経年的傾向を、米国National Cancer Instituteのがんサーベイランス機構によって開発されたJoinpoint analysis にあてはめ計算・グラフ化した。対象部位は国際疾病分類(ICD-10)に基づく全部位、胃、大腸、肺、肝、乳房、子宮、前立腺について検討した。
【結果】Joinpoint analysisによる分析から、福井県では全部位における傾向として、男女ともに罹患は1986年から微増傾向にあり、死亡は女性では有意に減少傾向、男性の死亡は1999年からそれまでの増加傾向から減少に転じた。部位別に減少傾向を示したがんとしては、罹患、死亡ともに胃が男女とも最も大きな減少傾向を示した。また子宮も罹患、死亡ともに減少傾向を示していた。一方、乳房や前立腺では罹患も死亡も増加傾向にあった。更に肝臓や肺の死亡率は未だ減少傾向にはなく、全国値との間に乖離が認められた。
【結論】がんによる死亡は近年減少傾向であり、それらには特に胃がんの減少効果が大きく関与しており、検診や診断治療法の進歩による効果が推測された。罹患も死亡も増加している大腸(男性)、肺、乳房および前立腺には、更なる対策が必要であると考えられた。

キーワード:罹患率、死亡率、がん登録
P244-252

5)大崎コホート2006研究:研究デザインとベースラインにおける研究参加者の特性

栗山進一(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)、中谷直樹、大森芳、島津太一、菊地信孝、柿崎真沙子、曽根稔雅、佐藤文美、永井雅人、菅原由美、遠又靖丈、アクタルムニラ、東口みづか、福地成、高橋英子、寳澤篤、辻一郎

【背景】日本における大規模コホート研究は、心理社会的要因を必ずしも曝露として含めてこなかった。さらにこれらコホート研究では、障害をアウトカムとして十分に評価してこなかった。
【方法】大崎コホート2006研究は、宮城県大崎市の住民基本台帳に登録されている40歳以上の住民で、ベースライン調査に有効回答した49,603人(男性22,438人、女性27,165人)から構成される。社会心理的要因を含むベースライン調査は、2006年12月に実施した。死亡、転出、死亡原因、がん罹患、介護保険に関する情報を、2007年1月1日より追跡している。
【結果】有効回答率は64.2%であった。生活習慣関連要因の分布を比較すると、日本人を代表する集団のそれと本研究対象者のそれとは、全体的にみて類似したものであった。ただし現在喫煙者の割合は本研究対象者で高かった。年齢と心理的苦痛との間にはU字型の関係がみられ、男女とも60歳から69歳で最もその割合が低かった。また、心理的苦痛を有する割合は、男性に比べ女性で高かった。ソーシャル・サポートがないと回答した者の割合は40歳から49歳で最も高かった。男女ともほとんどの者が地域の活動に参加していなかった。65歳以上の者では、ベースライン時に10.9%が介護保険の認定を受けていた。
【結論】大崎コホート2006研究は、社会心理的要因と障害に焦点を当てた、新たなコホート研究である。

キーワード:大崎コホート2006研究、研究デザイン、社会心理的要因、障害
P253-258

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