Journal of Epidemiology vol.20-(6) |
1)インターネットを用いた川崎病サーベイランスシステムの特徴と妥当性 中村好一(自治医科大学公衆衛生学教室)、屋代真弓、阿江竜介、千原泉、定金敦子、青山泰子、小谷和彦、上原里程、原田正平 【背景】日本では通常の川崎病全国調査は実施されているが、この疾患の流行状況を迅速に察知するシステムは存在しない。 【方法】インターネットを用いた川崎病サーベイランスシステムを開発した。第19回全国調査への報告患者数を都道府県ごとに考慮し、355の小児科にサーベイランスへの参加を依頼し、そのうちの225小児科が同意した。2008年1月よりこれら225の小児科に所属する小児科医は川崎病患者のデータを診断後すぐに報告している。インターネット(http://www.kawasaki-disease.net/kawasakidata/)で毎日の患者数が公開されている。2008年のデータの妥当性を20回川崎病全国調査の結果をゴールドスタンダードとして検証した。 【結果】2008年第1週から第52週までの間にインターネットを利用したサーベイランスシステムに3376人の患者が報告された。同じ時期の全国調査への報告患者数は11680人で、このうち4950人がサーベイランスシステム参加施設、6730人がその他の施設からであった。サーベイランスシステムと全国調査の流行曲線は類似していて、相関係数は0.806(p<0.01)であった。 【結論】日本におけるインターネットを用いた川崎病サーベイランスシステムは高い妥当性を示した。 キーワード:川崎病、罹患、疫学、サーベイランス、インターネット P429-432 2)森永ひ素ミルク中毒事件(1955年)被害者6104人の長期予後 田中英夫(愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部)、津熊秀明、大島 明 1955年に西日本を中心に発生した森永ひ素ミルク中毒事件の被害に遭った生存者で、(財)ひかり協会による救済事業を受けていた6104人を1982年(当時平均27.4歳)から2006年まで観察し、その長期予後を、大阪府一般人口における死亡率を用いた標準化死亡比(SMR)を算出して評価した。観察開始から最初の10年間は全死因のSMRが1.5と有意に高かったが、10年を越えると一般人口の死亡率と同じになった。全期間を通じててんかん発作等による神経系疾患のSMRが3.7と有意に高く、特に観察開始時点で就労状態になかった男の神経系疾患のSMRが25.3と有意に高かった。 キーワード:ひ素中毒、標準化死亡比、前向き調査、食中毒、神経系疾患 P439-445 3)出生年コホート別に観察した川崎病累積罹患率と学童心電図異常出現率の検討 河合邦夫(福井県南越前町河野診療所)、屋代真弓、中村好一、柳川洋 【背景】川崎病は全身の血管炎を起こし、冠動脈の異常がみられる。心電図異常は一時的なものを含めると川崎病の罹患者のなかに高頻度に出現するとされる。さらに、急性期を過ぎても少数例では心後遺症の残存がみられる。これらの川崎病罹患者、川崎病の心後遺症残存者の遠隔期の脈管系への影響については未知の領域が大きい。 【方法】川崎病全国調査から出生年コホート別の川崎病累積罹患率や心後遺症累積罹患率を求めた。それらを学校心臓検診における出生年コホート別の心臓疾病や異常の出現率、心電図検査異常出現率などと比較し、川崎病累積罹患率の大小と学校検診の心臓疾病等の出現率の大小との関係をみた。 【結果】川崎病心障害後遺症期累積罹患率のグラフは徐々に減少を描いていた。しかし、出生年コホート別の心電図異常出現率と、川崎病累積罹患率・川崎病心障害急性期累積罹患率のグラフはいずれも増加傾向で類似の変動をしていた。 【結論】これらの結果から、心障害後遺症期に後遺症を残さなかった川崎病既往児においても川崎病の心血管系への長期の影響の可能性が示唆され、心障害を急性期のみに呈した患児や、心後遺症が出現しなかった患児においても詳細な長期の経過観察が必要であると思われた。 キーワード:川崎病、MCLS、累積罹患率、出生年コホート、心電図異常出現率 P453-459 4)1975年から2008年において多胎出産割合の増加が低出生体重と早産に及ぼす影響 大木秀一(石川県立看護大学健康科学講座) 【背景】不妊治療の普及により多胎出産の割合が急増しているにもかかわらず、日本において多胎出産が低出生体重や早産に及ぼす影響の長期的な傾向を疫学的に解析した報告はない。 【方法】厚生労働省が公表している人口動態統計で多胎出産に関する部分を分析に用いた。低出生体重児(2500g未満)、極低出生体重児(1500g未満)、超低出生体重児(1000g未満)については1975-2008年の統計を用いて、早産(37週未満、32週未満、28週未満)については1979-2008年の統計を用いて、単胎児に対する相対危険と人口寄与危険割合の長期変動を分析した。 【結果】過去20年間で多胎出生児の割合は2倍に増加し、現在では出生児の2%が多胎児であった。観察期間において全ての項目で人口寄与危険割合は増加傾向を示し、2008年ではおよそ20%であった。 【結論】日本においては多胎出産の急増による公衆衛生学的な影響はいまだ残されたままである。 キーワード:多胎出産、低出生体重、早産、相対危険、人口寄与危険割合 P480-488 |