Journal of Epidemiology vol.22-(5) |
1)福島県における県民健康管理調査プロトコール 安村誠司(放射線医学県民健康管理センター、福島県立医科大学公衆衛生学)、細矢光亮(放射線医学県民健康管理センター、福島県立医科大学小児科)、山下俊一(放射線医学県民健康管理センター)、神谷研二(放射線医学県民健康管理センター、広島大学原爆放射線医科学研究所)、阿部正文(放射線医学県民健康管理センター、福島県立医科大学病理病態診断学)、明石真言(放射線医学総合研究所)、児玉和紀、小笹晃太郎(放射線影響研究所) 【背景】2011年3月11日の日本大震災に引き続いて起こった福島第一原子力発電所の事故により、福島県民は長期間にわたる不安状態に陥っている。福島県は、震災直後に、事故による慢性の低線量被ばくによる健康影響を評価するため「県民健康管理調査」を開始した。福島県立医科大学はこの調査の企画、及び、実施の中心となった。本調査の第一の目的は、長期にわたり住民の健康を評価すること、住民の将来の幸福に寄与すること、そして、慢性の低線量被ばくによる健康影響があるかどうかを検証することである。 本報告は、「県民健康管理調査」の理論的根拠と実施状況を報告するものである。 【方法】本コホート調査は地震後に福島に居住しているすべての住民が対象となっており、調査は基本調査と4つの詳細調査から成り立っている。基本調査は全住民205万人の外部被ばく線量を評価するものである。内部被ばく線量は、ホールボディカウンターを用いて福島県が評価することになった。詳細調査は、福島県の18歳以下のすべての子供を対象とした超音波検査による「甲状腺検査」、避難区域のすべての住民を対象とした「健康診査」、及び、避難区域のすべての住民を対象とした「こころの健康度と生活習慣に関する調査」、及び、県内において3月11日時点で妊娠していたすべての女性における妊娠と出産に関する「妊産婦調査」から成り立っている。すべてのデータはデータベースに集められ、住民の支援、及び、被ばくによる健康影響の分析のために用いられる。 【結論】基本調査は30%に満たない低い回答率のため、健康影響の評価は難しい可能性がある。甲状腺の超音波検査を現時点で受診した38114人の子供たちの間で、悪性のケースはなかった。「こころの健康度・生活習慣調査」及び、「妊娠調査」により、こころの健康管理の重要性が明らかになった。この長期の大規模疫学調査は、低線量被ばくと災害関連のストレスによる健康影響の調査として価値あるデータを提供することが期待されている。 キーワード: コホート調査; 放射線; 災害; 甲状腺; メンタルヘルス P375-383 2)一般住民における血清HGF濃度とがん死亡との関連性の検討 大塚麻樹 (久留米大学 心臓・血管内科)、足達 寿、 David R. Jacobs, Jr、 平井祐治、 榎本美佳、深水亜子、熊谷俊一、南條泰輝、吉川邦子、江崎英司、熊谷英太、横井加奈子、緒方絹歌、塚川絵理、笠原明子、大部恭子、今泉 勉 【背景】肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor;HGF)はがん患者においてその血中濃度が上昇し、予後予測因子のひとつである。我々は我が国における大規模な一般住民検診に於いて血清HGF濃度を測定し、将来のがん死亡の予知因子となりうるかどうかを検討した。 【方法】1999年に行った検診受診者1492名を対象とした。ベースライン時に明らかな肝疾患の既往や最近のがんの既往のあるものを除外した1470名を10年間前向きに追跡した。 【結果】追跡期間中に169名の死亡が確認された。そのうち61名が癌死亡、32名が心血管死亡、76名がその他の死亡であった。生死別に血清HGF濃度を比較したところ死亡者で有意に高値であった。(死亡者0.26±0.11、生存者0.23±0.09ng/ml,p<0.01)またCoxの比例ハザードモデルを用いて全死亡との関連性について検討したところ年齢、収縮期血圧、HGF(ハザード比1.27;95%信頼区間1.06-1.52,p=0.009)、アルブミン、喫煙、クレアチニンが独立した全死亡の予測因子であった。さらに年齢、HGF(ハザード比1.31;95%信頼区間1.04-1.65,p=0.02)、総コレステロールは独立したがん死亡の予測因子であった。 【結論】血清HGF濃度は我が国における健康な一般住民における潜在癌の予測因子として有用である可能性を示唆することができた。 キーワード:サイトカイン、前向き調査、世界7か国共同研究、死亡率、がん P395-401 3)血清α-及びγ-トコフェロール濃度と循環器疾患死亡率との関連:JACC Study 長尾匡則(獨協医科大学公衆衛生学)、山岸良匡、磯博康、玉腰暁子、JACC Study Group 【背景】血清トコフェロール濃度と循環器疾患死亡リスクとの関連についての研究は非常に少ない。本研究では血清α-及びγ-トコフェロール濃度と脳卒中・虚血性心疾患死亡との関連を検証することを目的とした。 【方法】文部科学省助成大規模コホート(JACC Study)の1988-1990年のベースライン調査で血清提供に同意し、脳卒中、心疾患、がんの既往がない40-79歳の男女38,158人(男性13,382人、女性24,776人)を対象として、脳卒中死亡及び虚血性心疾患死亡をアウトカムとするコホート内症例対照研究を行った。対照は、ケースと性・年齢(±5歳)・居住地域・血清保管年数がマッチした者から無作為に抽出した。 【結果】13年間の追跡期間中、脳梗塞死亡302人(男性165人、女性137人)、脳出血死亡210人(男性85人、女性125人)、虚血性心疾患死亡211人(男性114人、女性97人)が認められた。血清α-トコフェロール濃度は男性においていずれの死亡とも関連がみられなかったが、女性では全脳卒中死亡と脳出血死亡との間に負の関連がみられた。女性の血清α-トコフェロール濃度最低値群に対する最高値群の多変量調整死亡オッズ比は、全脳卒中死亡が0.35(0.16-0.77; P for trend = 0.009)、脳出血死亡が0.26(0.07-0.97; P for trend = 0.048)であった。血清γ-トコフェロール濃度は男性の脳梗塞死亡と負の関連が見られたが、女性の脳出血死亡とは正の関連がみられた。最低値群に対する最高値群、及び1標準偏差増加分におけるそれぞれの死亡の多変量調整オッズ比は、男性脳梗塞死亡が0.48(0.22–1.06; p for trend = 0.07)及び0.77(0.58–1.02)、女性脳梗塞死亡が3.10(0.95-10.12; P for trend = 0.052)及び1.49(1.04-2.13)であった。 【考察】女性の脳出血死亡との関連において、血清α-トコフェロール濃度は負の関連を示したが、γ-トコフェロール濃度は正の関連を示した。これらの結果にはトコフェロールの抗酸化作用と抗血栓作用が関与していることが考えられる。 P402-410 4)日本人における3歳時の体格と11歳時の体組成の関係:静岡ポピュレーションベース研究 甲田勝康(近畿大学医学部公衆衛生学教室)、中村晴信、藤田裕規、伊木雅之 【背景】東アジアの集団において、幼児期の体格とその後の体組成の関連についての詳細な研究はない。今回は日本人集団における3歳時の体格と11歳時の体組成の関連について、二重エネルギーエックス線吸収法(DXA法)を用いて検討した。 【方法】標的集団は2008年から2010年に静岡県下の3つの公立小学校に在籍した726名の児童である。体組成はDXA法で測定し、幼児期の体格(BMI)は母子健康手帳から入手した。統計解析には一般線形モデルを用いた。 【結果】標的集団のうち550名から体組成と幼児期の体格のデータを得た。3歳時のBMIは11歳時の全身骨塩量(BMC)、全身除脂肪軟部組織量(FFSTM)、全身脂肪量(FM)と正の関連を示した。出生から3歳のBMI z-scoreの変化も11歳時のBMC、FFSTM、FMと正の関連を示した。交絡因子調整後の11歳時のBMC、FFSTM、FMの平均値は、共に3歳時に低体重であった者が正常体重よりも低く、3歳時に過体重であった者は正常体重よりも高かった。 【結論】3歳時の体格はその後の体組成を予測した。 キーワード:栄養、小児、体組成、発達 P411-416 5)日本における小児の血圧年次推移-1994~2010年 白澤貴子(昭和大学医学部公衆衛生学部門)、落合裕隆、西村理明、森本彩、嶋田直樹、大津忠弘、星野祐美、田嶼尚子、小風暁 【背景】小児期の血圧の年次推移を観察することは、将来の高血圧や心血管疾患発症の動向を予測する際に重要である。そこで本研究は、日本人学童・生徒における血圧の年次推移について体格別に検討した。 【方法】対象者は、埼玉県伊奈町にて実施された小児生活習慣病予防検診を受診したすべての小学4年生(小4、1994~2010年)および中学1年生(中1、1997~2010年)10894人とした。検診の実施に際しては、あらかじめ対象者および保護者から書面による同意を得た。同検診において、身長、体重、血圧を測定した。体格は、Body Mass Indexを算出し、Centers for Disease Control and Preventionの基準に従って、「非過体重・非肥満」「過体重」「肥満」に分類した。解析は、血圧を従属変数、西暦を独立変数として直線回帰分析を行った。 【結果】収縮期血圧の年次推移は、小4および中1とも、性別にかかわらず有意な減少傾向を示した。(小4男児:-0.350、女児:-0.513、中1男児:-0.434、女児:-0.473mmHg/年)(すべてのP値< 0.001)。体格別の解析においても、小4および中1男児では体格に関係なく収縮期血圧は減少傾向を示した。拡張期血圧は、小4では性・体格に関係なく有意な減少傾向を示したが、中1では男児の過体重群、肥満群および女児の肥満群において有意な減少傾向は認めなかった。過去17年間、小4では性・体格に関係なく血圧は減少傾向を示した。しかし、中1では、体格別に検討した場合、肥満群において血圧の年次推移に有意な傾向は認められなかった。 キーワード:血圧、Body Mass Index、小児、年次推移 P448-453 |