JEA
Journal of Epidemiology vol.23-(1)

1)コーヒー摂取とメタボリックシンドローム有病率との負の関連:日本多施設コーホート研究(J-MICC Study)徳島地区ベースライン調査

高見栄喜(徳島大学大学院へルスバイオサイエンス研究部予防医学分野)、中本真理子、上村浩一、勝浦桜子、山口美輪、日吉峰麗、澤近房和、十田朋也、有澤孝吉

【背景】コーヒーおよび緑茶の摂取量とメタボリックシンドローム (MetS)との間に関連があるかどうかは明らかになっていない。
【方法】この断面調査では、日本多施設共同コーホート研究 (J-MICC Study)徳島地区ベースライン調査に参加した554名を対象とした。コーヒーと緑茶の摂取量は、質問票で測定した。MetSの診断には、National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel Ⅲ (NCEP ATPⅢ)および日本肥満学会 (JASSO)の基準を用いた。コーヒーおよび緑茶の摂取量とMetSおよびその構成因子との間の有病率との関連を調べるためにロジスティック回帰分析を用いた。
【結果】性、年齢、その他の交絡因子を調整した後、コーヒー摂取量とNCEP ATPⅢのMetS基準により診断したMetSの有病率との間で有意な負の関連を認めた (P for trend= 0.03)。またコーヒーの高摂取群で中性脂肪高値のオッズ比 (OR)の有意な低下を認めたが (P for trend= 0.02)、腹囲の増加や血圧の上昇との関連は認めなかった。JASSOの基準を用いた場合は、コーヒーの中摂取群 (1.5杯/日以上3杯/日未満)で高血糖のオッズ比の有意な低下を認めた (OR= 0.51、95%信頼区間: 0.28-0.93)。緑茶の摂取量とMetSおよびその構成因子との間には有意な関連を認めなかった。
【結論】コーヒー摂取が、主として血清中性脂肪濃度との負の相関により、NCEP ATPⅢ基準によるMetSの有病率の低下と関連していることが示唆された。今後、因果関係の検証のため、前向き研究などのさらなる研究が必要である。
キーワード:メタボリックシンドローム、コーヒー、中性脂肪値、血糖値、緑茶

P12-20

2)日本人成人における家計支出および婚姻状況と循環器疾患のリスク要因の関連

1福田吉治、2日吉綾子

山口大学医学部地域医療推進学講座1、University College London-Department of Epidemiology and Public Health2

【背景】個人の社会経済的な状況によって健康水準が異なることが知られており、健康格差や健康の社会的決定要因が公衆衛生や健康政策で重要になっている。この研究は、社会経済的要因として家計支出と婚姻状況に注目し、これらと循環器疾患のリスク要因との関連について分析を行った。
【方法】調査は、国の代表的な調査である国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査(平成15~19年)に参加した40歳から64歳の男性2664名と女性3662名のデータを用いた。家計支出ならびに婚姻状況によって、循環器疾患のリスク要因である肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病の割合が異なるかを解析した。
【結果】男性では、家計支出とリスク要因とに有意な関係は認められなかった。一方、女性では、家計支出が低いほど、肥満、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームに準じた複数のリスクを持つ者の割合が高かった。女性において、最も家計支出の高い群に比較した最も低い群のオッズ比は1.39から1.71だった。婚姻状態との関連では、女性では既婚者は未婚者よりリスク要因の割合が高くなっていたが、男性では逆の関係が認められた。【結論】この研究では、女性でのみ家計支出は循環器疾患のリスク要因と関連していた。社会経済的に好ましくない状況にある者ほど、循環器疾患になりやすくなる可能性が示唆されたが、性別や婚姻状態によりその関連性は異なった。健康づくりや循環器疾患の予防において社会経済的な要因にも考慮しなければならないことが示された。
キーワード:健康格差、社会経済的要因、家計支出、循環器疾患リスク、婚姻状態

P21-27

3)わが国の国民健康・栄養調査と都道府県民健康・栄養調査における血液化学検査成績を評価するためのモニタリング・システム(改訂版)

中村雅一(国立循環器病研究センター 予防健診部)、木山昌彦、北村明彦、石川善紀、
佐藤眞一、野田博之、吉池信男

【背景】わが国の国民健康・栄養調査と都道府県民健康・栄養調査で集計される血液化学検査成績を総合誤差の大きさから評価・判別するためのモニタリング・システムを再構築した。
【方法】国民健康・栄養調査の全部と一部の都道府県民健康・栄養調査の血液検体は、㈱SRL(東京都八王子市)で同一装置・同一精度管理体制のもとに委託分析されている。1999年から2010年までの10年間における血液化学検査14項目を対象に、SRLの外部精度管理成績から正確度を、内部精度管理成績から精密度を求め、2つの指標から総合誤差(Total Error、%)を計算した。総合誤差の許容範囲は10年間の中央値の信頼限界の80%以下に、非許容範囲はその2倍の値と規定し、許容範囲と非許容範囲の中間域をボーダーラインと規定した。判定は、血液化学検査項目の総合誤差が許容範囲に入る場合は使用可、ボーダーラインに入る場合は注意して使用可、非許容範囲に入る場合は利用することは望ましくないとする。
【結果】計算の結果、ボーダーラインを含む総合誤差の上限値は次の値となった。総コレステロール5.7%、HDLコレステロール9.9%、LDLコレステロール10.0%、トリグリセライド10.4%、総タンパク6.6%、アルブミン7.6%、クレアチニン10.8%、ブドウ糖6.5%、γ-GTP 9.7%、尿酸9.7%、尿酸7.7%、尿素窒素8.7%、GOT 9.2%、GPT 9.5%、HbA1c 6.5%であった。
【結論】医学研究者が、わが国の国民健康・栄養調査と都道府県民健康・栄養調査で集計された14項目の血液化学検査成績を利用して、その項目の経年的な継続性や地域比較の可能性を検討するに際し、非許容範囲に入る成績を使うことによって予期しない錯誤や誤った結論に到達するリスクを避けるために、総合誤差による3レベル(Acceptable、Borderline、Unacceptable)のモニタリング・システムを再構築した。
キーワード:モニタリング・システム。正確度。精密度。総合誤差

P28-34

4)日本人の一般集団における乳製品の摂取と循環器疾患死亡:NIPPON DATA80

近藤今子1,2、尾島俊之2、中村美詠子2、早坂信哉2、寶澤篤3、斎藤重幸4、大西浩文4、赤坂憲4、早川岳人5、村上義孝6、奥田奈賀子7、三浦克之8、岡山明9、上島弘嗣8,10、NIPPON DATA80 研究グループ

1浜松大学健康プロデュース学部、2浜松医科大学健康社会医学講座、3東北メディカルメガバンク機構予防医学・疫学部門、4札幌医科大学内科学第二講座、5福島県立医科大学衛生学・予防医学講座、6滋賀医科大学医療統計学部門、7国立健康・栄養研究所栄養疫学研究部、8滋賀医科大学公衆衛生学部門、9日本結核予防会第一健康相談所、10滋賀医科大学生活習慣病予防センター

【背景】近年、牛乳・乳製品の摂取と循環器疾患との負の関連が西洋諸国の研究で報告されている。本研究では、日本における牛乳・乳製品の摂取と循環器疾患死亡との関連について検討した。
【方法】1980年に日本全体の300地区で実施した国民栄養調査の対象者のうち30歳以上の男女を24年間追跡した。牛乳・乳製品摂取量の3分位間の死亡リスクをコックスの比例ハザードモデルにより高摂取群を基準として算出した。また、摂取量1日100g増加あたりのハザード比も算出した。
【結果】対象者9,243人の24年間の追跡期間における循環器疾患死亡は893人で、そのうち心疾患死亡が174人、脳血管疾患死亡が417人であった。女性において、低摂取群の循環器疾患死亡、心疾患死亡、脳血管疾患死亡のハザード比は年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、糖尿病歴、降圧剤服薬、職業区分および総エネルギー摂取量を調整した場合それぞれ1.27(95%信頼区間:0.99-1.58;トレンドp=0.045)、1.67(0.99-2.80;p=0.02)、1.34(0.94-1.90;p=0.08)であった。牛乳・乳製品1日100g摂取増加毎のハザード比は、女性において循環器疾患死亡0.86(0.74-0.99)、心疾患死亡 0.73(0.52-1.03)、脳血管疾患死亡 0.81(0.65-1.01)で低下傾向にあった。男性では有意な関連は見られなかった。
【結論】牛乳・乳製品の摂取は日本において女性で循環器疾患死亡と負の関連があった。
キーワード:乳製品、循環器疾患、死亡率、血圧、心疾患

P47-54

5)家庭内の受動喫煙は医療費を増やす:地域住民を追跡したコホート研究

森島敏隆(京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野)、今中雄一、大坪徹也、林田賢史、渡邉崇、辻一郎

【背景】受動喫煙は数多くの喫煙関連疾患の罹患リスクを上昇させることが知られている。受動喫煙と医療費の関係を検証した先行研究はいずれも計量モデルによって推計したものであり、実証研究は国内外において報告されていない。本研究の目的は、能動喫煙をしたことのない成人女性を対象に、家庭での受動喫煙が医療費を増やすかどうかを明らかにすることである。
【方法】宮城県大崎保健所管内に居住する国民健康保険加入者を追跡した大崎コホート国保研究のデータを用いた。1994年に40~79歳の加入者に受動喫煙に関する情報を質問紙で調査した。加入者の医療費データを保険者を通して1995年~2007年に収集した。一般化線形モデルを用いて様々な交絡因子を調整した上で、生存者/非生存者別に受動喫煙の高度暴露群、中等度暴露群、非暴露群の医療費を解析した。
【結果】4870人の成人女性の医療費を分析した。70~79歳の女性のうち、高度暴露群の生存者の月間総医療費(入院医療費+入院外医療費+調剤医療費)は非暴露群の生存者の医療費に比べて有意に高かった。中等度暴露群と非暴露群の間に有意差はなかった。他の年齢階級の生存者と全年齢階級の非生存者の医療費で受動喫煙の暴露レベルによる有意差を認めなかった。
【結論】受動喫煙によって医療費が増加することを個人レベルの観察データに基づいて世界で初めて実証した。受動喫煙によってもたらされる経済的負担を示した本研究は、受動喫煙を防止する政策を形成するための1つの客観的根拠となるだろう。
キーワード:受動喫煙、タバコ煙公害、医療費、診療報酬明細書、保健医療政策、公衆衛生

P55-62

6)生殖補助医療による17258件のふたご妊娠における先天異常の一致率:2004年から2009年の全国的調査

大木秀一(石川県立看護大学健康科学講座)

【背景】生殖補助医療によるふたごの大部分は二卵性である。二卵性ふたごペアの分析は、先天異常の形成過程における家族集積性を検討するうえで有効である。
【方法】日本産科婦人科学会が公表している全国的な生殖補助医療データを利用して、家族集積性の指標として再発危険率(RRR)を算出した。再発危険率はふたごペアにおける先天異常の発端者一致率を一般集団における先天異常の発生頻度で除した値と定義した。国際疾病分類第10版(ICD-10)のコードQ00-Q99(先天奇形、変形及び染色体異常)に従って、先天異常の症例データを再分類した。2004年から2009年までに17258件のふたご妊娠があった。
【結果】236組のペアに少なくとも1児の先天異常が認められた。一致が11組、不一致225組であった。主要組織分類に関しては、眼・耳・顔面及び頚部の先天奇形(11.8%)、唇裂及び口蓋裂(10.5%)、神経系の先天奇形(9.8%)、消化器系のその他の先天奇形(9.5%)で高い発端者一致率が認められた。眼・耳・顔面及び頚部の先天奇形(RRR=233)、特に、耳のその他の先天奇形(RRR=449)、大型動脈の先天奇形(RRR=235)、特に、動脈管開存症(RRR=530)、唇裂及び口蓋裂(RRR=208)、特に、唇裂を伴う口蓋裂(RRR=609)で高い再発危険率を認めた。先天異常全体の発端者一致率(8.9%)は、多因子遺伝を仮定して推定した同胞再発危険率(8.8%)とほぼ一致した。
【結論】今回の知見は、ある種の先天異常に家族集積性があることを示唆する。
キーワード:先天異常、生殖補助医療、ふたごペア、一致率、全国的疫学研究

P63-69

7)2011年東北地方太平洋沖地震に伴う津波による東北三県の死亡パターン

1中原慎二、2市川政雄
聖マリアンナ医科大学1、筑波大学2

【背景】2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震は、東北地方太平洋沿岸に大津波による壊滅的被害をもたらし、20,000人近い死者行方不明者が発生した。本研究では最も大きな被害を受けた岩手県、宮城県、福島県における年齢、性、地域別の死亡パターンを分析した。
【方法】警察発表の岩手県、宮城県、福島県における地震による死亡者データを用いて、性別、年齢層別、地域別の死亡率を算出した。年齢層別死亡率の地域差は岩手県を参照カテゴリとする死亡率比により比較した。
【結果】すべての地域で、年齢別死亡率は年齢とともに上昇する傾向があったが、性差は見られなかった。岩手県では、学齢期の子供が他の年齢層に比べて著しく低い死亡率を示した。宮城県北部、南部地域(宮城県南部と福島県)で、学齢期の子供は他の年齢に比べて高い死亡率比を示した。
【結論】本研究では死亡パターンの地域差の原因を明らかにすることはできなかったが、災害による被害を最小限に抑えるための防災対策を改善するためには、これらの地域差の原因を明らかにしていく必要がある。

P70-73



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